イベント報告
もう君を幸せにできんと泣いた夫(つま)  (今からはじめる老い支度)

《今からはじめる老い支度シリーズ》第二弾
~もう君を幸せにできんと泣いた夫(つま)~
                                        講師:多賀 洋子さん
                                       於:浜松・沼津労政会館
 
今からはじめる老い支度シリーズの第二弾は、~もう君を幸せにできんと泣いた夫(つま)~と題して、若年性アルツハイマー型認知症を患ったご主人を約10年にわたり介護された多賀洋子さんを講師に招きお話いただきました。
主催:(株)コープライフサービス・(一財)静岡県労働福祉事業協会・(公財)静岡県労働者福祉基金協会(ライフサポートセンターしずおか)
(浜松会場:6月1日 浜松労政会館 参加者42名・沼津会場:6月4日 沼津労政会館 参加者53名)
多賀さんは京都に生まれ、京都大学薬学部を卒業後、ご主人と知り合い結婚されました。ご主人が定年退職されると、念願の田舎暮らし実現の為、三重県津市に移り住みますが、その頃から物忘れが目立つようになり、人付き合いを嫌がったと言います。そのうち、切符の買い方がわからなくなり、植えた花を踏み潰す等、症状は進行していきます。
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何冊かの本を読み進めていくと、ご主人が認知症の症状に似ていることから、将来に対しての不安で背中がゾッとし、一人悩み苦しむ日々が続いたと言います。この間を、著書「ふたたびのゆりかご」では暗黒の3年と表現し、どの家族も精神的に苦しむ時期が、数ヶ月から数年あると書いています。
ある日、「もう嫌になった。死にたい。包丁を貸せ。洋子を幸せにできない。」と絶望するご主人を目のあたりにします。認知症でありながらも、自分への優しさや役に立ちたいというご主人の想い。これまで非難ばかりしていた自分が情けなく泣いたと言います。
『もう君を幸せにできんと泣いた夫(つま) 惚(ほう)けてもなお優しいあなた』
その時の気持ちを歌にしたこの作品は、2008年NHK介護百人一首に入選したもので、今回のタイトルにも使わせていただきました。これまでの自分をようやく変えることができた、優しく接するようになったら夫も変わったような感じがしたと言います。
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そのうち、物の識別ができなくなり、何処へ行くにもスケッチブック、家の中すべてのものをスケッチブックと言い張るご主人。昼ごはんを手で食べる、失禁、排泄物の上を踏み歩く、徘徊。家の中の消毒、掃除、洗濯は増え、不眠にもなったそうです。肉体的に疲れはじめた頃、多賀さんは、C型肝炎の治療の為、2週間の入院が必要となりました。ショートステイは、他の方に迷惑をかけたことで受け入れてもらえず、病院に入院してもらうことを子供の理解を得ることで何とか乗り越えることができました。
病院から退院後、在宅介護は無理だと判断して、特別養護老人ホームに入所を決意しました。頻繁に面会に行っていたある日、ご主人に、「何が人生の中で一番良いことだったと思う?」と聞くと、「あんたと結婚したこと」と言ったように聞き取れたと言います。精神科へ入院させたこと、特養に入所させたことを許してくれていたのだと思い、嬉しかったそうです。いずれは、自分のこともわからなくなるだろう、たとえ自分の言葉が理解できなくなって気配だけになったとしても、相づちを励みに一方的にでも夫の思い出を語りかけてあげようと思ったそうです。
 
そして、2冊目の本「認知症介護に行き詰まる前に読む本」が書店に並んだ5日後、ご主人は、穏やかに苦しむことなく旅立ちました。享年73歳。
 
多賀さんの体験から伝わる言葉のひとつひとつが、非常に重く心に響いた内容で、会場からはすすり泣く声が多く聞かれました。約10年にわたる介護体験は、2冊の著書(ともに講談社)とNHKラジオ深夜便でも紹介され、現在は、少しでも悩み苦しむ方の力になりたいと、講演会活動やボランティアで電話相談を行っています。
最後に、認知症の症候に気づいたら、疎外感、不安感をなくすことで症状を軽くすることができる、認知症の診断は、本人でなくても家族が出向き相談することもひとつであるなど、介護体験から学んだことやコツなどを紹介し、締めくくりました。
今後の予定ですが、2013年10月19日(土)13時より、静岡で開催する今からはじめる老い支度に再びお招きします。皆様のご参加をお待ちしております。
 
*多賀さんの心が軽くなった本として、小澤勲さんの「痴呆を生きるということ」(岩波新書)が紹介されました。
ライフサポートセンターしずおか

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